「HUMANisM 〜超★対談編〜」渋谷龍太(SUPER BEAVER) × 田邊駿一(BLUE ENCOUNT) × 河内健悟(ircle)

「HUMANisM 〜超★対談編〜」渋谷龍太(SUPER BEAVER) × 田邊駿一(BLUE ENCOUNT) × 河内健悟(ircle)

 

「HUMANisM 〜超★地獄編2022〜」

 

同年代3バンドのボーカルによる対談が実現!

河内健悟(ircle)渋谷龍太(SUPER BEAVER) 田邊駿一(BLUE ENCOUNT)

インタビュアーも同年代。まさにHUMANisMなスペシャル対談。

また元気にみんなで集まれる日を願って。

 

 

インタビュー・テキスト 矢島大地


 

 

 

 




 

 

■ircleの主催フェス「HUMANisM~超★地獄編2022~」が、ircleの地元・大分で5月14日に開催されます。ircleが地元に錦を飾るイベントであることも踏まえ、長い歴史をお互いに見てきた3バンドでの対談をこうして行うわけですが、まずircleとして、どんな気持ちから「HUMANisM~超★地獄編2022~」が始まったのかを語ってもらえますか。

 

河内健悟「『HUMANisM』と冠したイベントは8年前くらいから毎年やってきたんですけど、その中での大きな目標が、地元の別府でフェスをやるっていうことだったんですよ。そもそもイベント名を『HUMANisM』を決めたのも、ちゃんと心が繋がっているバンドにしか声をかけないっていう精神的なコンセプトからで。だから今回のフェスも商売云々関係なく『愛でどこまで街と人を楽しませることができるんだろう?』っていうことから始まって、俺らと心の繋がったバンド達のライヴで人が楽しむところを見てみたいと思ったんですよ。ircleはポンと売れたバンドではないけれども、幸せなことに素晴らしい仲間がたくさんいて。だから故郷でのフェスを開催する時には、素晴らしいと思える仲間をちゃんと召喚したいと思って声をかけて。それと同時に、俺らも大きな会場で大きな背中を見せられるバンドにならなきゃと。そういう考えの元、初めて地元でフェスを開催するに至りました」」

 

 

■主に渋谷のO-EASTで開催してきたイベントを地元に持って行こうと思ったのは、20周年を超えたことが大きなきっかけだったんですか。

 

河内「そうだね。本当は2021年にやろうと考えていて、それが20周年の始まりにあたるタイミングだったの。でもコロナ禍が長引いたことで、これは開催が難しいだろうと2020年のうちに判断して。ならば20周年のケツにフェスを開催しようと。それで2022の開催になったんだけど、20周年で絶対にやろうと思って温めてきたイベントだね」

 

 

■まずircleのイベントへの想いを伺いましたが、そのオファーを受け取った時にSUPER BEAVERとBLUE ENCOUNTはどんな気持ちだったんですか。

 

田邊駿一「俺はこのイベントに呼ばれなかったらヘコんでたと思う(笑)」

 

 

■呼ばれなかったらヘコんでたというのは、裏を返せば、それくらいircleと強い繋がりがあると自覚してたわけですよね。

 

田邊「そうだね。九州の仲間っていうのもあるし、付き合い自体は2011年くらいからなんだけど。そもそも俺は『TEENS' MUSIC FESTIVAL』(1987年にスタートした、10代ミュージシャン限定のコンテスト)の全国大会にircleとSUPER BEAVERが出ているところを見てたし、俺からすれば九州時代からずっと知っている2バンドなんだよね。それで東京に出てきてから出会って、一緒にライヴをするようになって。その繋がりがあってのこのイベントだから、ircleがどんなライヴをして、俺らはそれをどう迎え撃つのか。それが楽しみだと思ってオファーを受けました」

 

 

■渋谷くんはどうですか。

 

渋谷龍太「当たり前のように『出るよ』って返事した。俺個人は『地元の街をどうこうしたい』って思ったことがない人間でさ、きっと自分の地元が新宿っていうのが大きいんだろうけど。だからこそ俺は、自分の地元の街背負ってコトを興す人達をカッコいいと思うのね。河内が大分の町おこしをしたい、大分を盛り上げたいと思っているなら賛同するし、そうじゃなかったとしても、ircleのイベントなら普通に出てたと思う」

 

 

■ただ、誰彼構わず呼んでもらったら出るっていう話でもないですよね? そういう意味で、ircleはビーバーとブルエンにとってどういう存在なんですか。

 

渋谷「そこは、ircleのライヴがカッコいいっていうことに尽きる。ircleは昔からの友達だけど、バンド活動においてはその付き合いの長さは関係なくて。とにかくircleがカッコいいから一緒にやりたい。俺らがカッコいいと思えるバンドと一緒にやらないと俺らのプラスにならないし、カッコいいバンドと一緒にやるから俺らもワクワクするのであって。だってさ、カッコいいバンドを観ることができなかったら俺らのお客さんにも失礼じゃない? だから俺達はカッコいいバンドとしかやらないし、どんなに付き合いが長いircleとはいえ、最近のircleがもしカッコよくなかったらオファーを断ってたと思う」

 

河内「ぶーやんが言ったように、俺らも『今のircleが一番カッコいい』と思えてなければ呼べないからね。俺らにもプライドがあるけん。逆に言えば、ブルエンやビーバーが最近よくねぇなあと思ったら呼んでない。俺らもただ闇雲に20年やってきたわけじゃないし、まだまだ自分らの音楽を広げている旅の途中なので。その旅の途中で改めて交われることが幸せだし、メラメラしたイベントになるんじゃないかと思ってます」

 

田邊「そうだね。そういうメラメラした気持ちは昔も今も変わらないし、3バンドで一緒に回った2011年のスプリットツアーの時から一緒なんじゃないかな」

 

 

■まさに2011年にスプリットツアーを一緒に回った3バンドということも含め、ircle主催のフェスにこの3バンドが出揃うのはとても素敵な邂逅だと思うんですね。ただ旧い仲であるということ以上に、2011年から2012年の頃は、音楽的にも活動的にもそれぞれの道を歩み始めた時期だったと思うんです。そうしたストーリーがあって今再び交われる意味を、どういうふうに感じているのかを教えてもらえますか。

 

河内「まあ、当時はガラガラのライヴハウスを一緒に回ってるだけやったけど(笑)。でもひとつの分岐点があの頃にあったのは間違いなくて。俺らは自主盤(『You』と『Run』)のリリースツアーを絡めてスプリットツアーを回ったのを覚えてるんやけど、ファミレスで3バンドで打ち上げしながら、この先どうしていくか、みたいな話をたくさんして。まあ、当時のircleは捻くれまくってて大人の世界を嫌ってるだけやったんやけど。レーベルに誘われても『うさんくせえから断る』とか言ってたし、酒を飲むたび闇雲に喧嘩してたし。……一番最初に入った事務所がめちゃくちゃで、大人の事情でツアーをナシにされたりしたの。ビーバーに誘ってもらった対バンも3箇所くらいキャンセルせざるを得なくなったりさ。そこから音楽業界の大人に対しての反発が始まってるのよ」

 

田邊「でも、俺はそれがカッコいいと思ってたよ。ブルエンは当時の事務所から他に移ったほうがいいって説得してもらったこともあったし、いろんなことを変えて行こうっていう時期だった。なんなら俺は、ビーバーとircleに食らいつきたい一心だったしさ(笑)。俺らは渋谷のO-Crestに出始めた頃で、その中で明らかに秀でてる2組だったから」

 

渋谷「秀でてた自覚はない(笑)。SUPER BEAVERはメジャーから落っこちたばっかりで、まだ自主盤すら出してなかった頃だから。まずは自分達4人だけで全国を回ろう、たくさんライヴをやろうっていう感じだった。それまでの俺らは大人の言う通りにするばっかりで、バンドマンとして過ごせてなかったから。自分達の手と足を使って人に会いに行くことが足りてないバンドだったんだよね。それを2011年くらいからやり始めて、その中でBLUE ENCOUNTとircleと一緒にツアーを回ろうっていう話になったんだけど。メジャーから落っこちて初めてできた横の繋がりが単純に嬉しかったから、深いことを考えず、一緒にツアーやろうよっていう話をしてた気がする。言ってみりゃノリと勢いだけ(笑)。でも、ノリと勢いも当時の俺らにとっては大事でさ。俺らは九州のライヴハウスにほとんど行ったことがなかったから、これはいい機会だなって思ったんだよね。最初は人間として友達になったのが大きかったけど、もちろん2バンドの音楽も好きだったし。友達といろんなところを回る経験自体が楽しそうだと思ったのが一番大きかったんじゃないかな」

 

河内「まあ、最初はシンプルに友達ってところから始まったよね。だけどバンドごとになると当然ライバルになるけん。絶対に超えなきゃいけないふたつの壁っていう感じ。シンプルに2バンドとも素晴らしいし、それは昔も今も変わらん。『今交われる意味』って言ってくれたけど、俺にとっては、2バンドを超えていきたいっていう部分がずっと変わらないと思う」

 



 

■今言ってくれたビーバーとブルエンの素晴らしさは言葉にできます?

 

河内SUPER BEAVER・渋谷龍太に関して言えば、絶対的な言葉の力、言葉の遣い方をたくさん持ってるし、それを超えたいと思ってる。一緒にツアーを回った当時『もっとぶーやんの自我が見たい』っていう話をしたのを覚えてるけど、今や自我も言葉も爆発してるからさ。BLUE ENCOUNT・田邊に関して言えば、ある時から文明開化したように素晴らしいライヴをするようになっていて。たとえばライヴ中に涙を流すくらい感情が入ったアクトになっていって、それがスゲぇと思う。たとえば昨日友達が死んだ、とかだったら俺もライヴ中に涙が出たりするけど、田邊はライヴ一発で涙を流せるヤツなんだと思って。そこまで自分の言葉や歌に感情移入できるようにパンと変わったのがブルエンは凄い。で、そうして進化しながらデカいステージでやるようになった2バンドを観てクソほど悔しい気持ちになるわけよ。その悔しさをバネにするっていうほど簡単でもないんだけど、でも、自分がデカいステージでやった場合どうするのかっていう思考に転換できるようになってきたのが今なんだよね。だからこそ今回ビーバーとブルエンを呼びたいと思ったし、一緒にツアーを回っていた頃からircleが選んできた道--大きな組織の力を借りず自分達でなんとかしたいっていう道を選んできたなら、自分達でデカいステージを作るしかなくて。そこからまた新しいステップに進んで行こうと思わせてくれるのがSUPER BEAVERBLUE ENCOUNTなんだよね。もちろん後輩のバンドにもカッコいい連中はたくさんいるけど、特にSUPER BEAVERとBLUE ENCOUNTは今も昔も特別なライバルなのよ」

 

 

■今の話は、SUPER BEAVERとBLUE ENCOUNTが元々持っていた自我を解放して、それを研ぎ澄ませて武器にしていったっていう話ですよね。

 

河内「そう。じゃあ俺は何を研ぎ澄ますのかって考えて、シンプルにメロディと言葉を磨いてきたのね。で、その上で自我を爆発させることはずっとやってきたんやけど、今こそ磨くべきなのは全員野球の能力だって思うようになってきて。ircleは全員が凄いプレイヤビリティを持ってるバンドだからこそ、全員が『俺はこっちを向く』っていうふうになりがちで。でも、それをギュッと結ばなきゃいけないっていう気持ちになってきたんだよね。人からは『20年やってきて今かよ』って言われるかもしれないけど、20年やったからこそ大事なことに気づけたと俺は思ってて」

 

渋谷「河内がircleの4人を結ぶ役割をしようと思ってるの?(笑)」

 

河内「思ってる。きっとそんなキャラに見えないんやろうし、俺自身も自分を雑な人間やと思ってるけど--」

 

田邊「俺らも思ってる。だって10年以上前から、むちゃくちゃに酒を飲み散らかしてる健ちゃんを見てるからね」

 

河内「はははははは。でもさ、やっぱり俺がやらんと。まあ、昔のむちゃくちゃな自分に戻ったほうがいいのかな?って思うこともあるんやけどなぁ。めちゃくちゃに飲み散らかして尖れるだけ尖ろうとしてた俺に戻らないといけないのかなって思う瞬間もまだあるの。要は、もっとむちゃくちゃな自分でいないと自分の武器がなくなっちゃうのかな?って思っちゃう瞬間もある。ただ、ここまで生きてくるとやっぱり気づくんだよ、俺はなんて普通の人間なんだろうって」

 

渋谷「ただ、もうすでに河内がircleの顔になってるわけじゃん。枠組みを作ったり内装を手がけたりする以上に、看板として胸を張ればいいじゃんって俺は思うけどな」

 

田邊「昔は、破天荒な看板でいようとする自分がいたってことだよね。でも破天荒って出そうと思って出せるもんじゃないし、そのまま自然でいれば十分に強い看板だと俺も思う。河内の歌と曲こそが看板だよね」

 

河内「まあ、それが20年っていうことに繋がるんやろうけど……大人になったんやなって思うことは増えた。カッコつけたい自分も未だにいるけど、カッコつけたり強く見せたりしたい以上に、人に嫌われたくないっていう気持ちがどんどん強くなってきたの。こんな弱音みたいな話に価値があるのかわからないけどさ、大事な人が増えた分、嫌われたくないって思ってしまう」

 

 

■それは自分にとってどんな変化だと捉えてるんですか。

 

河内「……経年変化というよりは、いろんな人と出会えば出会うほど手放したくないものが増えてきたんやろうな。だからこそ今回のフェスみたいに、俺らと心で繋がってきた仲間を地元に呼ぼうと思えた気がする」

 

 

■よくわかりました。懐かしい話、お互いへの気持ちを語ってもらいましたが、2011年にスプリットツアーを回って以降、3バンドそれぞれ音楽性やライヴパフォーマンスがどんどん確立されていった印象があるんですね。音楽性はそもそも違ったけれど、活動の方向性を含めて分かつていったと感じていて。

 

田邊「確かにそうかもね。あのスプリットツアー以降、簡単につるむことをしなくなった。振り返ると、2011年に『スプリットツアーのファイナルとして東京でも3マンライヴやろう』っていう話が出たの。でも、このままだとなあなあになりそうだなっていう感じがして。じゃあやめておこうっていう話になり、それ以降はこの3バンドで何かをやる機会がほぼなくなったんじゃないかな」

 

渋谷「もちろんお互いに友達だけど、バンドの馴れ合いは好きじゃないからね。馴れ合いで何かをやっても単純にカッコよくないじゃん」

 

田邊「そのヒリヒリ感が正しかったって今改めて思うけどね。別に話し合って決別したわけでもなく、自分達にできることをやった先で自然と交われるはずだっていう気持ちだったと思う」

 

河内「ただ、お互いに刺激を受けるツアーを一緒に回れたからこそ、ブルエンが新しい事務所に入ったり、俺らは自主レーベルを設立したりっていう変化があったんやと思う。もっといろんなことをやってみようってそれぞれに考え始めた結果、自然とつるまなくなったというか。……まあ、俺で言えば、2011年から2012年の時期はブルエンへの嫉妬がめちゃくちゃデカかった時期かな」

 

渋谷「実際、ブルエンのお客さんがあからさまに増えてた時期だからね。2012年辺りから一気に差がついた実感はあったよ」

 

 

■BLUE ENCOUNTが『HALO EFFECT』をリリースしたのが2012年で、エモやメロディックを取り入れて明確に音楽性が変わっていった時期だったと思うんですけど。

 

田邊「そうだね。まさに『HALO EFFECT』から聴いてくれる人が増えてきて、イベントでビーバーやircleと一緒になることはたまにあったんだけど、自然とその機会は減っていって」

 

渋谷「ブルエンの動員が増えて、それに伴って対バンするバンドのタイプも変わっていった印象がある。そもそも音楽性が変わったからライヴも変わったし。全然違う舵の切り方したなぁって思ったね。さっき『分岐点』って言ってくれたけど、2012年とか2013年の辺りはSUPER BEAVERもircleも大して変われてない時期だったんだよ。だから状況も変わらなかったし、300人のキャパでワンマンできるかどうかっていうのを続けていて。ただ、2012年から2013年の辺りで、それぞれ一緒にやる(対バンする)相手の毛色が変わっていったのは事実だよね。俺らは[NOiD]っていうレーベルに所属したことがきっかけでメロディックコアやパンクのバンドと一緒にやるようになったりとか。その中で一足先に変わっていったのがブルエンで、それぞれに見ている景色が変化していったのは事実なんじゃないかな」

 

河内「そういう意味で、その当時からあまり変わってないのがircleなんやろうな。出会った人、出会ったカッコいいバンドとの繋がりを前面に出す活動を続けてるきただけな気がする。小さいところでもデカいところでも変わらない、これで突き進むって思うしかなかったから。で、自分の持っているものを磨くしかないって思わせてくれたのもSUPER BEAVERとBLUE ENCOUNTだったからさ。BLUE ENCOUNTは大きく舵を切ってデカいステージに行った。SUPER BEAVERは元々持っていた言葉の力を貫いて今の状況を作った。方法論こそ違えど、やっぱりそれぞれに自分達を確立させるための道のりがあったのは間違いないことで。だからこそ俺らも俺らのやり方を貫くしかないって改めて思うんだよね」

 



 

■世代と言うとザックリになるから申し訳ないんですが、ロックバンドとしてどういう活動をするのか、それぞれ何を軸にして活動するのかの選択肢が増え、シーンの様相がそれまでと変化していったのが2010年代だったと思うんですね。たとえばひとつ前の世代で言えば、年中ハイエースを転がして日本全国のライヴハウスで活動基盤を作っていくのが当たり前になっていたわけですよね。だけどこの3バンドの世代ではフェスというものが市民権を得て、ステージの大きさをチャート代わりにする状況が生まれていった。かたや、そういうマーケットに対する反発も含め、デカいシーンと交わらずにバンドを続けていく流れもあって。要は、バンドというものの在り方がより細分化されていったし、それぞれにどこへ舵を切るのか選択を要求される場面が増えたと思うんです。そういう意味で、それぞれにどんな道を自覚的に歩んできたと思います?

 

河内「ああ、やっぱりフェスというものが売れてる/売れてないの指標になったから、それを横目に見ながらやってきたところはある。俺らもフジロックのルーキー(ROOKIE A GO GO)に出たりしたけど、やっぱり観に来る人がいないと意味がないと実感してさ。じゃあ俺らはライヴハウスで愚直にやり続けて、ライヴハウスを盛り上げた上でフェスに編入するつもりでいないとダメなんだと思ってた。正直言えば、フェスになかなか呼ばれない現実もあったしさ。何故呼ばれないんだろう?って悩んだ時もあったけど、じゃあ自分達でフェスを作るしかないっていう考えに至ったのが今で。どちらにせよフェスがひとつの指標になってきたのは間違いないし、それは俺らの世代が直面してきた大きな流れで。ビーバーもブルエンもフェスに呼ばれてる中、俺らはドサ回り型っていうか。そこで得た感覚でもって上質な作品を作る……ircleはそういう活動をやってきたかな。ライヴでも音楽でも嘘をつかないバンドにならなきゃ、って思ってきた」

 

 

■渋谷くんと田邊くんはどうですか。

 

田邊「うーん……自分で振り返ると、最初は必死にいろんな人の真似をしてただけでね。それこそビーバーとircleに出会った頃なんて健ちゃんとぶーやんの真似をしてたし。ふたりの真似してレディースのジャケット着てたし、ふたりの真似してTシャツの襟を切ってたし(笑)」

 

渋谷「そこかよ(笑)」

 

田邊「いやいや、とにかく自分がカッコいいと思ったものを必死に吸収するしかなかったんだよ。裏を返せば、身なりから真似をしないといけないくらい当時の自分には何もなかったから。だけどやっぱり気づいていくもんでさ、人の真似をすればするほど『自分とは何なんだろう?』っていう螺旋に入っていっちゃうんだよね。その結果として、自分の感情を思い切り移入させるしかなかった。どうしても不器用になれない人間というか、人の目を気にしながら波風立てないように生きてる人間なのがずっとコンプレックスだったんだけどさ。じゃあそんな自分をどうすれば打破できるのかっていう部分でいろんな音楽を吸収しながら常に変化してきたんだよね。去年と一昨年はライヴをしにくい状況になっちゃったけど、だからこそ自分自身とブルエンをどう遺せるのかっていう指標でやるようになってきた気がする」

 

河内「不器用にやれない人間だっていう発言は聞いててびっくりしたんだけどさ、どうしても考えちゃう人間だっていうことを自分で受け入れたわけでしょ?」

 

田邊「一概に器用・不器用っていう言葉じゃないかもしれないんだけどね。これを言ったら大変なことになっちゃうかも、みたいなことを考え過ぎて血迷うことが昔は多かったからね(笑)。でも、その中でアルバムを作って、いろんな変化をしてきたから今があると思えてる」

 

 

■ビーバーはどうですか?

 

渋谷「さっきも話したけど、俺らは音楽的な変化みたいなものが少なかったバンドで。それを貫いてきただけっていう言い方もできるけど、フェスのムーヴメントを真正面から見てきたのも事実で、だからフェスになかなか呼ばれないのが気に食わなかった(笑)。初めてフェスに出たのが2015年の京都大作戦だったし、それ以前は俺達の下の世代ばっかりがフェスに出ていて。それが純粋に悔しかったし、たくさんの人に見てもらえるステージに立ちたかった。ただ、フェスに出ることを目標にして頑張ってきたことは一度もなくてね。このフェスに出るために何かしなくちゃいけない、みたいな部分がちょっとでもあるなら、やらない。フェスはあくまでご褒美で、言ってみりゃデカい試食会みたいなものじゃない? だからフェスに対する俺らの気持ちっていうのは、内側でフェスを作ってる人間の気持ちだったり、ライヴを楽しみにしてくれてる人の気持ちだったり、そこだけに向けてるつもり。それ以外の部分--このフェスに出れば箔がつく、みたいなところはマジでどうでもいい。あくまで俺らはライヴハウスで活動してるバンドだし、その軸は絶対に忘れてこなかったから。ライヴハウスで活動してるバンドがフェスにも顔を出せるようになったら面白いだろうなっていう気持ちでやってきたから、この世代だからどうこう、バンドの在り方が多様化した時代がどうこう、みたいな部分には興味がないんだよね。俺の興味ある部分が正しい、興味ない部分は間違ってるっていう話じゃなくてね。シーンを盛り上げよう、みたいな気持ちがさらさらないの」

 

河内「はははははは。なるほどね」

 

渋谷「他所がどうであれ関係ないって俺は思ってる。でもそれを担える人はやったらいい。だから河内がこうして一念発起してるのはマジで凄いことだと思ってるんだよ。それができる器の人間だからやるんだと思うしさ。俺らはその気持ちに賛同できるから一緒にやりたいって思う。そこが、さっき聞いてくれた『それぞれのバンドの在り方』の違いなんじゃないかなって気がする。……元々去年やる予定だったのが今回のフェスだけど、去年声をかけてもらった時、実は自分達のツアーが入ってたの。でもircleに呼んでもらったなら一旦ツアーはバラそうっていう話をして」

 



 

■それは凄い。

 

渋谷「でもコロナ禍の影響で2021年はフェスができなくなっちゃって、『せっかくツアーをバラしたのにね』って言ってたんだけど(笑)。でもさ、今回のircleのフェスも、たとえばLACCO TOWERの『I ROCKS』もカッコいいよね。自分らの街を背負う、自分達の故郷をレップする姿勢が。そういう部分が、数多あるフェスとは在り方がちょっと違うと思うんだよね。フェスでもなんでもそうだと思うけど、何かが大きくなればなるほど絡む事情が多くなって、個人の意志が薄れていくものじゃん。だけどこうして個人の意志が見えるイベントだったら主催の意志まで汲みたいと思う。そういうイベントなら、いろんなものを投げうってでも出たいよね。要は、シーン云々とかじゃなく、フェスと個人の在り方っていう軸がちゃんと見えているかどうか。それが一番大事だと思ってるかな」

 

河内「ありがとう。とにかく俺達は素敵なものを人に見せたいだけなんだよ。で、今日話していても思ったけど、ircleはガキの頃から主催ばっかりしてきたバンドなんだよね。好きな人を巻き込んで、好きな場所は自分達で作って。それを人に喜んでもらえる形でやるのが、もしかしたら俺らの武器になってきたのかもしれない。フェスに呼ばれないのが悔しいから自分達でフェスを作ったって話したけど、それだけじゃなかったんだと思った。俺らはずっと主催をやってきたんだよね(笑)。高校の時から小さいライヴハウスにいろんなバンドを呼んで、800円くらいのチケットでイベントやって。それを毎月やってるバンドだったんだよ。そういう卵があっての今なんだろうなって。そう思った」

 

 

■結成当時からircleは主催ばかりしてきた、好きな人達を巻き込む役割でい続けたかったのは、自分のどんな気持ちから生まれたスタンスなんだと思います?

 

河内「とにかくワクワクしたいんだよね。当然だけど、主催者はカッコいいライヴの一番最後にカッコいいライヴをしなくちゃいけないわけだから、絶対にスベれないじゃん。そういうのが好きなんだろうし、ircleは結構Mなバンドなんじゃない?(笑)」

 

 

■はははははは。自分らで壁を用意して、それを超えていく自分達にワクワクできるっていうことですよね。

 

河内「そうなんやろうな。『HUMANisM』っていうイベント自体はこれまでもやってきたけど、結構恐ろしいもんなのよ(笑)。恐ろしいライヴが連打された最後に俺らがキメなくちゃいけないんだから。でも、その壁を超えた時が一番楽しいのも知ってるんだよね」

 

 

ircleとしての自信があるから故郷に錦を飾ろうと思えるんだろうし、今日話してくれた通り、SUPER BEAVERBLUE ENCOUNTとは旧い仲だからこそ自分らのイベントに呼ぶのは覚悟が要っただろうし。端から見ていると、ircleircleとして強くなれたんだろうなって感じるんですね。河内くん自身は、今のircleをどう捉えてますか。

 

河内「バンドの意志として強く、固くなっているのは間違いないと思う。メンバー個々のレベルアップも当然感じてるし、凄くカッコいいバンドだと思えてる。20年やってきて今かよって思われるかもしれないけど、今こそいろんな人に見て欲しいって思えるレベルのバンドになった。今が一番カッコいいし、来年も再来年も今を超えて行きたいね。……やっぱりさ、荒っぽいバンドだったのよ。感情一発で行けばいいって10年以上も思ってたから。もちろんそれもロックバンドとしてカッコいいとは思うんだけどさ、それだけじゃ表現にならないんだよね。その点、音楽としての表現をちゃんと追求できるようになってきたから。だから、胸を張って今が一番カッコいいって言える」

 

 

■人に嫌われるのが怖いという話もありましたけど、それは今に限った話じゃなく、昔から河内くんの中にあったものなんじゃないかと思うんですね。そういう内省的な自分と、思い切り牙を剥かなくちゃ闘えないっていう自分とのせめぎ合いが歌になってきた人だと思うし、いろんな名曲がその気持ちを映してると思うんです。で、そういう自分をどんどん素直に表現できるようになってきていると感じるんですが、今、ご自身はircleの歌はどんなものだと思えてます?

 

河内「弱くてもいいじゃんって強めに言いたい(笑)。で、おっしゃる通り、俺はずっとそういう人間だったんだと思う。だったらそれを歌い続けようと思ってるかな」

 

田邊「俺は2020年の終わりくらいに、ircleの渋谷クアトロでゲストヴォーカルとして呼んでもらって。その時にも、メンバー個々の『バンドを動かしていくぞ』っていう強いエネルギーを感じて。そういうタイミングで一緒にいさせてもらった俺だからこそ、今回のフェスでircleがどんなライヴをするのか純粋に楽しみですね。もちろん、俺らはカッコいいライヴをするしさ」

 

渋谷「どのイベントに呼ばれたとしても『誰に呼んでもらったのか』という部分を大事にしてるし、出させてもらったステージで自分達の時間をしっかり作ることが主催者への一番の敬意の払い方だと思ってるからさ。だからここは田邊と違うところなんだけど、俺は別にircleのライヴを楽しみにしてるわけじゃない。あくまで俺らは俺らでやり切るだけで、一番最後にircleを観た時に悔しくさせてくださいっていう感じ」

 

河内「それは当たり前(笑)。大きなプレッシャーを俺らに与えてくださいっていう感じです。俺らはどうせカッコいいライヴをするから、受けて立つよ」

 

 

____ to be HUMANisM〜超★地獄編2022〜

 

 


(写真左から)  田邊駿一(BLUE ENCOUNT) / 河内健悟(ircle) / 渋谷龍太(SUPER BEAVER)

※本対談は、4月中旬に実施いたしました

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#HUMANisM超地獄